399 広岡にとってはアメリカでの野球留学を終え、評論家活動を2年やった後の初めてのコーチ稼業。 クールに見えても、身体中に闘志が漲っていた。 まずは井上を含め、内野手を徹底的に鍛え直した。 「カキーン」「違う!」「カキーン」「ダメ!」「カキーン」「ボケ、あかん!」 ノックバットを片手にダメ出しの連続。 広岡の銀ぶち眼鏡の奥のまなざしが井上に突き刺さる。 「そうじゃない」「ダメだ!」。 頭ごなしに否定されるものの、広岡は具体的な指示は一切出さない。 「違う、こうだ!」 広岡はノックバットを投げ、グラブを持って井上らがいる位置へ寄ってくる。 「いいか」とだけ言って、自ら手本を見せる。 ノックされた打球が、吸い込まれるようにグラブの中に収められていく。 あまりに無駄のない華麗な動きに、井上たちは呆気に取られた。 もし野球を知らない者がこの光景を見て、「この中で誰が一番上手いか」と尋ねられれば、誰しもが真っ先に広岡を指しただろう。 (・_・) 匿名さん2024/10/20 00:461