685 小林正人 森は縁の細い眼鏡の奥を光らせて言った。 オーバーハンドからサイドスローへ転向してみないかということだった。 思いつきではなく、タイミングを計っていたかのような口調だった。 この年はシーズン中から森の視線を感じることがあった。 ブルペンでピッチング練習をしていると、小林のことをじっと見ている。 そして、フラッとブルペンにやってきた落合もまた森と何やら話し込みながら、自分の方へと視線を送る。 そういうことが何度かあった。 もしかしたら、俺は期待されているのかもしれない…と内心では思っていた。 「昔な、こういう投手がいたんだ」 腕を下げるという言葉の真意を測りかねていた小林に、森は1本のビデオを手渡した。 自宅に帰ってそれを再生してみると、画面の中にはひとりのサウスポーがいた。 小柄で細身のその投手はモーションに入ると低く沈み込み、地面スレスレのところからボールを投げていた。 永射保─1970年代後半から80年代半ばにかけて、西武ライオンズ黄金時代の幕開けを支えたリリーバーだった。 (・_・) 匿名さん2024/10/30 00:19