131 再生 その2. 旅人は歩いていた。 ザクっ、ザグっ、ザクっ、、、 土の音が響いている。 「ここはかつて永久露土だったなんて本当なのか?」 ザクっ、ザクっ、ザクっ、、、 「僅かだが人が住んでいたようだ。」 色褪せたポスターが剥がれかけている。 「シン全裸監督・主演松本人志」 と印字された古いポスターの下半分は風に煽られ今にも剥がれ落ちそうだ。 ザクっ、ザクっ、ザクッ。 旅人は足を止めた。 目の前には、あちこちにパイプや鉄線が張り巡らされ、無数のアンテナが立っている三角形の建物が現れた。 「ここか…」 旅人は高い門の前に立った。 匿名さん2024/08/10 08:12
132 再生 その3. 旅人が門の前に立つと自動的に扉が開いた。 石畳をゆっくり進み、建物の中に入る。 昼間だというのに、やけに冷んやりしている。 埃っぽい空間にはら狼の剥製やマネキンのようなロボット、ケンタウロスの彫刻、錆びついた鎧などが所狭しと飾ってある。 「主はどこだ?」 壁に掛けられた巨大な肖像画の口が動いた。 「奥の部屋へどうぞ。」 匿名さん2024/08/10 08:12
133 再生 その4. オートマティックに扉が開くと、そこにはピエロのコスプレをした案内人らしき人物が立っていた。 「ヤァヤァ、オヒサシブリデス」 案内人はパントマイムのような動きで旅人を出迎えた。 「私を知ってる?」 旅人は返した。 「ワタシヲオボエテナイノデスカ?ホラ、チョウド100ネンマエ、バスエノイザカヤデ、サケヲノンダナカデワアーリマセンカ」 「あんた、何歳なんだ?」 「エー、セイカク二モウシマスト8001ネン、カドウシテオリマス。」 「あんたロボットか?」 「ロボット?ロボットニワ、タマシイワヤドッテナイデスヨ、アレワソウササレテイルダケデス。ワタシワタマシイガヤドッタ、”ヒト”トオナジデス。」 「なるほど、名前は?」 「トウジノナワ、タライ、タライハカセトヒトワヨビマシタ。イマワ、ロストウェルダムデス。ソンナコトヨリ、サァタケルサン、オクヘドウゾ」 匿名さん2024/08/10 08:13
134 再生 その5 ロストウェルダムと名乗る案内人は、旅人に扉のカギを手渡した。 「サァドウゾ」 旅人がその鍵を使い中に入ろうとするが、差し込んだ鍵は左右どちらにも動かない。 再び、何度も試みるが全く回る気配がない。 「回らないぞ。」 旅人は案内人に尋ねると、彼は言った。 「アナタワニセモノノヨウデスネ」 「どういう意味だ?」 「タケルサンホンニンナラバ、コノカギデヒラクコトガデキルハズデス。」 「は?俺は主に直接、呼ばれてここまできたんだぞ、早く本物の鍵を渡せ!」 案内人が笛を吹くと、ライフルを構えた警備隊が現れ、あっという間に囲まれた。 匿名さん2024/08/10 08:15
135 再生 その6 「このまま偽物を野放しにしとくわけにはいかないわね。」 上の方から主らしき声が降ってきた。 「ほ、本物の鍵をくれぇぇ」 旅人はひざまづいて震えている。 「偽物さん、サヨウナラ。」 主の一声で一斉にライフルから緑色の液体が放たれる。 ブシャーーーッ! 液体を四方八方から浴びた旅人は、まるでマトリョーシカのように様々な顔を見せながら溶け出した。 タケルの顔から四角いロボットに変化し、何かを叫ぶようにスーツを着たサラリーマンに変化し、やがて爬虫類の一部となり、最後には茶色の塊となっていた。 その様子を案内人は悲しい顔で見つめていた。 匿名さん2024/08/10 08:16
136 再生 その6 雨はやまない。 雨は天からブシャーーッと降り続いた。 緑の雨粒は茶色の塊に降り注ぎ、やがて 茶色の塊となったニセモノは沼化した床の底に沈んでいった。 「ニセモノは永久に沼の底よ」 天から高笑いが聞こえる。 しばらく沈黙が続いた後、案内人のロストウェルダムが、吊るしたタライを楽器のように打ち鳴らした。 ジャァーーン! 「さぁ中へどうぞ」 扉が開くと、真の鍵を手に黒伝馬にまたがった男がいた。 匿名さん2024/08/10 08:18
137 再生 その8 黒い馬は蹄を鳴らし、部屋の中へ進んだ。ひとりの男を乗せて。 馬はゆっくりと部屋は沼化した部屋の中央まで進む。 案内人が言った。 「ソコワキケンデスヨ」 馬はわずかに足を取られたがそのまま進み続けた。 グワ、グワ、グワ、、、 気がつくとニセモノが沈んだ沼地は消え、そこは草原と化し、通気口から風が拭き始める。 そして、辺り一面、海辺の景色が映し出された。 匿名さん2024/08/10 08:20
138 再生 その9 心地よい潮風がどこからともなく吹いている。草原が波を打つ。 360度、見渡す限り穏やかな浜辺だ。 そして天から声が降る。 「さぁ、この光景をよーく脳裏に焼き付けておくのよ。」 すると、3Dの小屋の中から猿たちがワサワサと集まりだし、中央にいる黒伝馬に乗った旅人を見つけると一斉に頭の中に埋まっていたスマホ引っ張り出し、旅人に向けてかざし始めた。 旅人は少し驚いたが、手を振ったり微笑んだりとポーズを決めてみせた。 猿たちは、次々とかざしていたスマホを湯船のタオルのように頭の上に乗せだした。 彼らの頭の上では、ジュワーーッと肉が焼けるような音がし、湯気が湧き上がった。そしてスマホは再び頭の中に吸い込まれていった。 その一連の動作が終わると猿たちは満足そうに手を叩いた。 匿名さん2024/08/10 08:23
139 再生 その10 夕暮れ時、馬から降りた旅人が白く艶やかな貝殻から造られた笛を取り出し、どこかで聞き覚えのあるメロディーを奏でると、空の高いところから楕円形のゴンドラが降りてきた。 ゴンドラには言葉を失うほど美しい女性が立っていた。 彼女は歌い始めた。 ♪波の旋律であそぶ私の世界へようこそ ララララ〜♪ 目を覚ますと、彼女はステージにいた。 倍満汁2024/08/10 08:441Vnp4JL71s2