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左翼は偽善者、保守派は正義

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だよね?

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「前国会で財特法案を流したのは三木総理と松野政調会長だ。この法案は選挙用にとっておこうという肚だった。今ごろ国益優先などとおれのところへ来られた義理か。追い返す」
大平はひどく腹を立てていた。案の定、大平・松野会談も物別れだ。
挙党協はこの動きを見て党議実現委員会と合同会議を開き「臨時国会を早期に召集すれば三木総裁を解任する」と決議した。
この頃、私はほとんど連日、瀬田の大平邸に出て、このあと会社に出勤する有り様だった。
三木首相はまたもやピッチャーを交代し、今度は井出官房長官が表に出た。「値上げ法案に関わる村上勇郵政相、木村睦男運輸相、大平蔵相の三相とお会いしたい」と申し入れてきた。「お会いしても無駄だ」と大平が断ると井出長官は「順序をふんでゆくため」と返事した。順序とは、三木首相が最後に「総理の権限で臨時国会を召集する」ということを示したものだ。
いよいよ最終段階がきて 9月6日、三木総理は大平、村上、木村の三閣僚と会談したが、これも物別れとなった。会談のあと大平は私に、次のように感慨を述べた。
「大福に事態の処理を一任したらどうか、と三木に話した。三木は寂しそうだった」

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翌日の朝、大平に会うと「三木総理の中立化を考え、選管内閣として残存法案を処理できないか、福田と連絡してくれ」と頼まれた。
私は横手秘書官と連絡したが、陳情者と話をしていて 私とは繋がらない。家人に聞くと「福田は一日中風邪で静養し、三木総理と会う予定はない」ことが判った。私は昼間の仕事を終えて福田邸にゆくことにし、自動車で赤坂に向けて走っていた。カーラジオが11時のニュースで「三木総理が突然、福田邸を予告なしに急襲した」ことを知らせた。私は内心「しまった」と思った。大平の話を伝える間もなく 三木・福田会談になってしまったからだ。三木は困りはてた末、福田に事情を述べ、その協力を要請して国会を開きたかったのだ。
「挙党協から足を抜いてほしい」と福田にいったことが大分あとから判った。

9月10日朝早く、大平と話していると田中六助代議士が来て「保利の考え」を連絡してきた。保利は「一週間程度の短い臨時国会を開く」という収拾案を示したらしい。「もうそろそろ幕を引け」ということだろう。そこへ福田から電話がかかってきた。

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「今日の閣議で臨時国会の日取りは決めねばなるまい。総理は『政局とは切り離して早急に国会を開きたい』と切り出し、これで押してくるよ。これは飲もう。その代わり11月に党大会を開くことで妥協しよう」
といってきた。大平もその肚になって
「ブラジル大統領のガイゼルが国賓として来日する。このための政治休戦だ。やむを得ない」
と返事した。
こうして三木総裁の解任を掲げ、三木総理に圧力をかけた挙党協の包囲網は、最後の詰めを行うことなく尻切れトンボのまま臨時国会召集へと進んでいった。またもや三木首相の判定勝ちだ。
双方にとってこの日の閣議が最後の詰めであった。朝9時から断続して五時間、文字通り緊迫した雰囲気の中で会議が続けられた。何度か決裂の場を迎えつつ、結局、結論のないまま終わった。
三木首相は「9月16日に国会を召集したい」と提案したが、これが決まらなかったのだ。井出官房長官が閣議の後
「明日午後5時、持ち回り閣議で決定する」
と一方的に臨時国会召集の意思を発表した。

翌9月11日、私は少し疲れたので朝ゆっくり起きて瀬田の大平邸に行ってみると、珍しく大平は出かけた後であった。

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森田秘書官が門の所にいたので 大平のことを聞いたが要領を得ない。ただ「宏池会へ行って下さい」の一点ばりだ。何かを隠している様子だ。
「他人行儀だな」と思ったが何もいわず 電話を借りるため屋敷の中へ入っていった。
大平夫人が出てきて無邪気に
「大平は六さん (田中六助) が何か話をしたので中曽根さんのところへ行ったらしいわよ」
と話してくれた。これで森田秘書官の曖昧な態度が判った。「口どめされていた」のだ。
何が起きているのか中々事情がのみこめない。宏池会での大平記者会見を聞き、何でも中曽根か誰かが提案し「三木総理が両院議員総会で解散せずと約束した後、国会を召集する」ことで事態解決への道が開かれそうだ、ということが判った。
「六さんがやったな」と私は思った。
この日、三木首相、中曽根幹事長と保利、船田の二人が会い、話し合いは成立した。「挙党協も妥協した」と新聞は報じた。
ところがこの時、学者グループの一人から私のところへ電話がかかった。
「この収拾案では挙党協の結束は崩れてしまう。危ない。一ヵ月かけて もう一度立て直さなければならなくなる」
という。

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私はすぐにはこのことが飲み込めなかったが、後でこの考えの正しさが判ってきた。これは改造、解散の機運で議員の心理が動揺し、集団的な行動などできなくなるということだ。
事態の本質がやっと判った。何としても大平に連絡しようと焦った。居所が判らない。結局、森田秘書官に連絡するしかない。
事情を述べて「挙党協は解散するな」と連絡方を頼んだ。森田は
「そんな声はどこにもありません」
と狐につままれたような声で返事する。私も半ば中っ腹で「勝って兜の緒を締めよということですよ。重要だから是非とも大平蔵相に伝えてほしい」といった。戦闘態勢にある時の連絡は ものすごく大切なものだ。受け方と伝え方で判断は死んだものとなってしまうだろう。

9月12日の朝、例によって大平は私の家に電話を入れ「今夕4時、家にきてくれ」という。大平に会うと「田中六助が朝、収拾案をもってきた。これは松野頼三が『これなら通る』と保証したものだ。六助がこれを中曽根幹事長に話すと、中曽根は『大平に会おう』となった。大平・中曽根会談が都内某所 (北野アームス) で行われた。これで話し合いがついたのだ。ともかくも分裂は回避された」

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大平はホッとした面持ちでそういった。
〈結果から見て、中曽根は三木と離れるな。ことに大平ぎらいの中曽根が大平に会おうといい出したではないか〉私はそう思った。
「昨日、森田君に託したのは学者グループの意見でしたよ」
「そうだと思った。だから挙党協は残すことにしたよ」
と大平は答えた。
大平も福田もこれで一応事態は収まったと見ていたが、学者グループは「完全に失敗した収拾だ」と見ていた。「何としても両院議員総会で党議を再確認しなければならない。むしろ党議を修正加筆すべきではないか」という意見であった。
私は大平にそのことを強く主張して帰った。大平は後で「君の提案を同志に話したが、代議士は両院議員総会には出たがらない。大臣病 (改造熱) に冒され始めたし、選挙気構えで恐怖心が生まれたのが原因だ」と解説してくれた。
いよいよ三木の手による改造人事が始まろうとしていた。
9月14日の早朝、大平に会うと
「閣議のあと三木はおれを呼びとめて、改造についての意見を求めるだろう。何といえばよいか」
ときく。私は「閣僚の割当表 (アロケーション・リスト) を崩すとえらいことになるから気をつけよ」

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「三派三役態勢をとれ。宏池会には党役員の一人を必ず割り当てよ。私は蔵相をやめたい。閣僚数は福田派と同様、三名にせよ」と意見を述べた。
後で判ったが この意見は大平の手によって完全に実現されることになる。

9月15日は敬老の日で休日であったが 私は瀬田で大平と会った。
午前9時近く 三木首相から電話がかかった。
「松野幹事長にしたい。了承してほしい」
「それでは われわれの方は収まらない」
大平はこう返事をした。私は大平と二人で食堂兼居間の電話の近くにいたが、即座にメモを書いて大平に渡した。「松野を指名する理由は何か、福田はどういっているか、この二点を質すべきだ」というメモだ。
「松野は各党各派と連絡がよい。福田君も松野でまとめている。君 (大平) もそこまで降りてくれないか」
「やってはみるが中々難しい」
大平はそういって電話を切った。
大平は早速 福田に電話して、直接この意向を確かめようとした。中々電話が繋がらない。福田邸の電話は全部が話し中なのだ。やっと一本通じたが「いま福田は別の電話に出ているので 終わったら福田の方から連絡する」と家人がいった。

700

30分以上待った。いらいらしてくる。とうとうこちらからかけた。やっと福田が出た。
「松野幹事長は了承していない。事情をききつつ (派内と) 話をしている最中だ」ということが判った。
大平はここで肚をきめ、宏池会へ電話した。総務の斎藤邦吉代議士が電話に出た。大平は今朝からの三木、福田とのやりとりをかいつまんで伝えた。
終わると間もなく三木首相からまた催促の電話がきた。
「松野を幹事長にしてほしい。君のところ (大平派) からは内田常雄君を政調に考えている」
「それは結構です」
大平は即座に内田の人事にOKの返事をしてしまう。私は
「松野の扱いが決まったら内田のことは考える、とあなたはそういうべきだった (この返事では半分 松野を認めたことになるじゃないか) 」
「その方がよかったな」
大平は素直にそういった。〈まだまだ大平は甘いな。会談に隙がある〉と私は内心思っていると、折り返し三木から
「松野を頼む」と催促の電話だ。
私は「この電話の経緯を記者団に述べよ」と大平にいった。この頃、大平番の記者団は休日にもかかわらず、応接間に続々集まってきていたのだ。

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大平は「福田と相談しよう」といってまた電話をとる。その結果、三木は福田に松野案の内示をした後「公表はさしとめたらしい」。ところが大平との電話では “これを忘れている” ことが判った。
私は「公表さしとめは福田だけだ。大平は記者団に話してもいい」というと「そこまでやらなくても」と大平がとめた。大平が手洗いに立った後、森田秘書官が
「伊藤さんのいう通りです。私から洩らしておきます」
といった。このことが後でひどくものをいった。
この日、三木首相は私邸から大平、福田に電話して二人の了解をとりつけようとしていたのだ。三木のそばに中曽根幹事長と海部官房副長官がいたのを私は当時知らなかった。別室に待機していた記者団から情報が入って「松野頼三幹事長 (福田派) 、桜内義雄総務会長 (中曽根派) 、内田常雄政調会長 (大平派) 」の三役人事がはっきりした。

宏池会の事務所にも続々と代議士が集まり始めた。鈴木善幸から電話がかかり、大平は斎藤邦吉に述べたと同じことを善幸に話した。
11時のNHKニュースは大平が松野幹事長案に反対であることを報じた。大平は私邸を出て宏池会に移ることになり、私は大平の自動車に同乗した。

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宏池会では自民党総務会の総務に出ていた福永健司と斎藤邦吉の二人がかんかんに怒っている。「大平は松野幹事長案に同意して宏池会代議士の不満をとりまとめにきた」と思ったらしい。
三役人事は形式的ではあるが党の総務会で了承されねばならないことになっている。役員の人事について ここで一応の反対が述べられる場でもある。田中派は松野頼三に絶対反対だ。かつて佐藤派が田中派と福田派 (保利系) に別れる時、反田中角栄の中心人物が松野であった。この人物の幹事長就任だけはどうしても許せないのだ。斎藤は田中派のこの重圧をまともに受けていたのだろう。「語尾がはっきりしない」と盛んにブツブツいっている。〈田中派から突き上げられたな〉と私は思った。もともと大福提携に反対する斎藤は ここぞとばかり やり場のない思いをまき散らしていた。
福田にも迷いはあった。松野が幹事長でも困りはしない。もともと松野は福田派だ。挙党協幹部の園田直あたりから突き上げられて、慌てて派内の収拾に当たったのではないか。
大平の意向 (松野反対) が判ると総務の福永は勇躍して院内の総務室に出かけていった。

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